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   鳳は、予想していなかった宍戸のそんな言葉に、驚愕していた。

   「なっ! どうして、そんな事を言うんですか? 

   俺達、このままじゃ終わってしまうんですよ。

   来月、俺は留学したら、もう二度と宍戸さんには会えません。

    俺の両親は、そのつもりなんですよ。」


   宍戸は、鳳の隣に腰を下ろすと、興奮している後輩をなだめるように、こう言ったのだ。


   「お前は、学校を辞める必要は無い。だって、お前には、来年もあるからな。

    これから、もっと多くの事を学園でやらないとならないからな。


   だから、退学するのは、俺がすれば良い事だ。」

   宍戸のそんな言葉に、鳳は目を瞠っていた。

   「長太郎。俺は、別に氷帝学園で無いといけないワケじゃない。テニスが出来るなら、

    どの学校へ行っても大丈夫だ。俺は、テニスが出来れば満足なんだ。


   それに、お前は、氷帝学園を全国優勝させてくれよ。俺達、三年の期待がお前ら

    二年にかかっているんだからな。ちゃんと約束は守ってくれ。」


   そう言ってから、宍戸は、苦しげに下を向いてしまった。ここまで言う事で、もう、

   宍戸はせいいっぱいなのだ。これ以上、何か話をしたら、涙が溢れてしまいそうだった。


   鳳は、宍戸の小さく震えている身体を抱きしめると、大声で叫んだ。

   「絶対に、そんな事は嫌ですッ! あなたのいない氷帝学園に、俺が一人で通って、

    一
体、どうするんですか? 宍戸さんが退学するなんて、絶対に駄目です。

   やっぱり、俺の思った通りですね。宍戸さんなら、そう言いだすような気がしていました。」

   鳳は、険しい顔をして、しばらく何事か考えてから、低い声で呟いたのだった。


   「……宍戸さん。やっぱり、俺達、この島で、ずっと二人だけで暮らしましょう。

    だって、……もう、帰るところは無いんですよ。」


   鳳は、宍戸にそう言って口づけをしてきた。
強い力で宍戸の身体を砂浜に押さえ込むと、

   彼の胸元へと腕を差し込んできた。


   突然、身体に与えられた愛撫に、宍戸は混乱しながら、鳳の腕を跳ね除けようとした。


   いつも穏やかな物腰だった鳳の、まるで人の変わったような形相に、彼の心の中に何か

   異常が起きたのだ
と、宍戸の心が警鐘を鳴らしている。

   自分の上で、身体を弄っている鳳からは、いつもの冷静さは全く無い。

   まるで、追い詰められた手負いの獣そのままだった。


   「長太郎ッ! 今すぐ、東京へ帰るんだッ! もう一度、お前の両親と話をして……。」

   宍戸の声は、鳳の叫び声で、かき消されてしまった。


   「無駄ですッ! 俺、何度も親と話し合いましたからッ! それでも、駄目だから。

    俺、ここに宍戸さんを連れてきたんですッ! この島に二人で来ているのは、

    誰も知りません。 俺……家出をして来たんですからッ! 」


   その言葉には、さすがの宍戸も驚きのあまり返答が出来なかった。


   鳳は、誰にも内緒で、この島へ来たのだと言う。


   「……でも、宍戸さんの立場で考えたら。こんな島に無理に連れてこられて。

    これじゃあ、まるで、『誘拐』や『拉致』」……そんな状況なのかもしれないですね。」


    鳳は、自嘲ぎみにそんな言葉を呟くと、宍戸の首筋に舌を這わせた。


    いつも、鳳にされている愛撫に違いないのだが、その時の宍戸には、ゾっと心の奥底が

    凍りつくような恐ろしさを感じていた。


    まるで知らない誰か別人に抱かれているような、そんな錯覚を感じたからだった。


    鳳に抱かれながら、宍戸は、こんな事を思い出していた。


    珊瑚礁にある砂浜は、全て珊瑚の死骸なのだと言う話だ。美しい砂浜の正体は、

    何億回と言う珊瑚の死で出来ているのだった。





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