3ページ目/全3ページ 鳳は、予想していなかった宍戸のそんな言葉に、驚愕していた。 「なっ! どうして、そんな事を言うんですか? 俺達、このままじゃ終わってしまうんですよ。 来月、俺は留学したら、もう二度と宍戸さんには会えません。 俺の両親は、そのつもりなんですよ。」 宍戸は、鳳の隣に腰を下ろすと、興奮している後輩をなだめるように、こう言ったのだ。 「お前は、学校を辞める必要は無い。だって、お前には、来年もあるからな。 これから、もっと多くの事を学園でやらないとならないからな。 だから、退学するのは、俺がすれば良い事だ。」 宍戸のそんな言葉に、鳳は目を瞠っていた。 「長太郎。俺は、別に氷帝学園で無いといけないワケじゃない。テニスが出来るなら、 どの学校へ行っても大丈夫だ。俺は、テニスが出来れば満足なんだ。 それに、お前は、氷帝学園を全国優勝させてくれよ。俺達、三年の期待がお前ら 二年にかかっているんだからな。ちゃんと約束は守ってくれ。」 そう言ってから、宍戸は、苦しげに下を向いてしまった。ここまで言う事で、もう、 宍戸はせいいっぱいなのだ。これ以上、何か話をしたら、涙が溢れてしまいそうだった。 鳳は、宍戸の小さく震えている身体を抱きしめると、大声で叫んだ。 「絶対に、そんな事は嫌ですッ! あなたのいない氷帝学園に、俺が一人で通って、 一体、どうするんですか? 宍戸さんが退学するなんて、絶対に駄目です。 やっぱり、俺の思った通りですね。宍戸さんなら、そう言いだすような気がしていました。」 鳳は、険しい顔をして、しばらく何事か考えてから、低い声で呟いたのだった。 「……宍戸さん。やっぱり、俺達、この島で、ずっと二人だけで暮らしましょう。 だって、……もう、帰るところは無いんですよ。」 鳳は、宍戸にそう言って口づけをしてきた。強い力で宍戸の身体を砂浜に押さえ込むと、 彼の胸元へと腕を差し込んできた。 突然、身体に与えられた愛撫に、宍戸は混乱しながら、鳳の腕を跳ね除けようとした。 いつも穏やかな物腰だった鳳の、まるで人の変わったような形相に、彼の心の中に何か 異常が起きたのだと、宍戸の心が警鐘を鳴らしている。 自分の上で、身体を弄っている鳳からは、いつもの冷静さは全く無い。 まるで、追い詰められた手負いの獣そのままだった。 「長太郎ッ! 今すぐ、東京へ帰るんだッ! もう一度、お前の両親と話をして……。」 宍戸の声は、鳳の叫び声で、かき消されてしまった。 「無駄ですッ! 俺、何度も親と話し合いましたからッ! それでも、駄目だから。 俺、ここに宍戸さんを連れてきたんですッ! この島に二人で来ているのは、 誰も知りません。 俺……家出をして来たんですからッ! 」 その言葉には、さすがの宍戸も驚きのあまり返答が出来なかった。 鳳は、誰にも内緒で、この島へ来たのだと言う。 「……でも、宍戸さんの立場で考えたら。こんな島に無理に連れてこられて。 これじゃあ、まるで、『誘拐』や『拉致』」……そんな状況なのかもしれないですね。」 鳳は、自嘲ぎみにそんな言葉を呟くと、宍戸の首筋に舌を這わせた。 いつも、鳳にされている愛撫に違いないのだが、その時の宍戸には、ゾっと心の奥底が 凍りつくような恐ろしさを感じていた。 まるで知らない誰か別人に抱かれているような、そんな錯覚を感じたからだった。 鳳に抱かれながら、宍戸は、こんな事を思い出していた。 珊瑚礁にある砂浜は、全て珊瑚の死骸なのだと言う話だ。美しい砂浜の正体は、 何億回と言う珊瑚の死で出来ているのだった。 楽園へ行きましょう 第2話へ続きます! 行ってみる→ ![]() 2ページ目へ戻る ![]() 小説目次ページへ戻る ![]() |